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――第4話――
~ぶ?~
その後の沙夜、マリオネット、ライトによるコードネームについての三つ巴の口論は省略。
「それじゃあ、登録の手続きは私に任せてね」
そう言い残し、沙夜は笑顔のままフッと、音も無くその場から消えた。瞬間移動の魔法を使ったのだろう。
残ったのは、口論に勝利して少し満足そうなライトと、口論に敗れて部屋の隅で座ってふてくされているマリオネット。この上なく複雑そうな顔をしている樹月の三人。
「さて、コードネームも決まった事だし、決まり通り本拠地を回るとするか。……お前はもう帰って良いぞ、マリオネット」
マリオネットは一層つまらなそうな顔をして。
「えー……ウチも樹月君とデートしたいわー」
「……お前ホントに何しに来た」
果てしなく困った顔をしている樹月を他所に、二人はまた口論になりそうな気配。
樹月が、そろそろ止めに入らなければと思った時。
「あああっ! こんなトコに居たあっ!!」
甲高い声。
ドアを物凄い勢いで開け飛び込んできたのは、マリオネットより年下に見える少女。
例の如く純白の服を着ていて、和服の高級金糸のように滑らかで煌びやかなセミロングで外跳ねの髪を揺らし、目は大きくて丸い印象的な。
肩で息をしているところを見ると、直前まで相当な運動をしていたのだろう。
「あ、見つかってもた」
「見つかってもたじゃなーいっ!」
両手をぶんぶん上下に振り、抗議する金髪の少女。
「ルドナーラか……。どうした?」
ライトが尋ねると。
金髪の少女、ルドナーラは怒った顔でまた声を張り上げる。
「聞いて下さいライトさんっ! マリオネットが任務ほったらかして消えたんですっ!!」
「……」
ギロリとマリオネットを睨むライト。それに合わせてルドナーラもマリオネットへ視線を送る。
マリオネットは困った苦笑いを浮かべて。
「ま、いつもの事やし、ええやん」
「「いつもの事にするなっ!!」」
暫らく口論、もとい三人の醜い喧嘩が続く。
完全に弾かれた樹月は部屋の隅っこで手をかざしてみたり、体に異変が無いか色々と試している。
「大体! 何でこんなトコにいるのっ!?」
ルドナーラに怒鳴られ、マリオネットは多少たじろぎながらも。
「樹月君に会いに来たんよ」
「へっ? 樹月君って?」
あれやー、とマリオネットが部屋の隅を指差す。
樹月も急に指差されて反応する。
「あれ、って……え? もしかして新入りの方ですか……?」
おずおずと尋ねるルドナーラ。樹月は頷く。
「ああっ! すみませんっ! 挨拶が遅れましたっ!! えと……私、神城ですっ。下の名前が水奈で、コードネームはルドナーラです」
ルドナーラは、神城水奈(しんじょうみな)と名乗って可愛らしく微笑む。
とりあえず自己紹介をされたので。
「俺は、倉野樹月。コードネームは……クラヴィウス」
これで良いのかな、とか思いつつも自己紹介してみる。
ルドナーラはまたニコリと笑う。誰も口を入れないということは、これで大丈夫なのだろうと安心。
「私が得意なのは治癒魔法です。よろしくお願いしますっ!」
「治癒魔法?」
樹月が聞き返すと、ルドナーラはまた驚き。
「え……? ああー……まだ全然知らないんですねー。治癒魔法っていうのは言葉の通り、ケガや病気の治療などが出来るんですよ。死人の蘇生は無理ですけど……」
「貴様もよく聞くだろう。ホイミとかケアルとか」
樹月は、ライトの言葉を受け流して。
「それは、すごいですね」
「はいっ! 例えばですね、樹月さんはメガネをかけてるという事は視力が悪いんですよね? そういうのを……」
ルドナーラは、てててと樹月に近づき、樹月の顔面近くに手を翳す。樹月は少々驚きながらも、身を引かずにそのまま立つ。
すると、ルドナーラの手が光ったように見えた後、樹月の目の辺りに、例えるなら風呂に入って疲れが取れていくような暖かい感触。
数秒後、ルドナーラは樹月の顔面近くから手を引き、言う。
「こうやって視力を戻す事も出切るんですよー」
樹月がレンズ越しに見る景色は、ぼやけていた。慌ててメガネを外す。すると、そこには今までレンズ越しに見ていた風景より更に鮮明な世界が映っていた。
「凄い……」
正直に感嘆する。魔法とは本当に何でもありか。樹月は要らなくなったメガネを、とりあえずケースに入れてズボンのポケットに突っ込んでおいた。
「私達は皆が一人一人それぞれ得意な魔法の種類を持ってるんですよー」
ルドナーラは自慢げに。
「まあそれは後々少しずつ分かる事だ。今こいつに話しても説明の時間が無駄だ」
確かに、沙夜が何千や何万もの種類があると言っていた。だがそれら全てを説明されるのは気が遠くなる。
「そうですねー。それじゃ、私はマリオネットを連れて任務に戻りますので!」
「ああ、頼んだ」
ライトが言うと、ルドナーラは未だに文句を垂れているマリオネットの首の後ろ辺りの襟を掴み、子猫を連れて行く母猫のようにマリオネットを引きずって部屋を出て行った。
「樹月くーん。また会おなー」
やがて二人は見えなくなり、部屋に静寂が戻った。
一息。
「ようやく静かになったな……」
「……」
本当に嵐のような人たちだった。
ライトはすぐに踵を返し、ドアを開けて部屋を出る。
「騒がしい奴らも消えた事だし本拠地を回るぞ。付いて来い」
「はい」
二人は、幾重にも繋がる巨大な通路を右へ左へ進んでいく。
途中、道端で見たことの無いような物を売る店があったり、RPG定番の武器屋、防具屋があったり、何かよく分からない異形の物を売っている店があったり、魔法で手品か芸のような物を披露している人がいたり、色々。
それら全てに樹月は好奇心を持ちながら、ライトに付いて行く。歩いてみると、広さに比例し、ここには多くの人が住んでいる事が分かってくる。
すると、何度目かの通路を右に曲がった所で人だかりが見えてきた。ライトも気になったようで、人々が集まる所へ向かう。
通路を進むと、多くの人が樹月が最初に来た広場よりも広い、例えるなら闘技場のような所に集まっている。樹月は一瞬、その人の多さに圧倒される。
「うおぉっ!レイが青龍に変身したっ!」
「すげえ戦いだ!」
「いや、だがゼーランディアも余裕だぞ……!!」
その闘技場のような場所の後ろの方で、前の様子がよく見えないような二人組みが話をしている。
「あれ……何やってるんでしょう」
「……決闘だな。また例の二人だろう」
「好きですね、レイさんも」
「まあ、今日もまたどうせ……ゼーランディアの勝ちだな」
樹月は、人に話しかけるのは得意ではなかったが、少し勇気を出して二人組みに話しかけてみる。
「あの……これは何をやっているんですか?」
会話をしていた二人の男は振り向き。
「ああ、見ての通り、レイとゼーランディアがいつもの決闘をやっている」
初めて聞く名前に、樹月は首を傾げる。
二人の男の背の低い方が、樹月のTシャツ、長ズボン姿を見て。
「あれれ、その格好、もしかして新入りですかね?」
背の低い方が背の高い方に聞く。
「の、ようだな……。一応ルールとして自己紹介をさせてくれ。私は破山道。破山道武(はざんどうぶ)っていうのがフルネームなんだがな。で、コードネームはブレイクだ」
白髪で長髪。昔の西洋貴族のようにオールバックにして整えられた髪形。
背は高く、高貴でカリスマ的雰囲気をバリバリ漂わせてはいるが、嫌味な素振りはなく、むしろ人見知りする樹月が話しかけられたほど、接しやすいオーラが出ている。ついでに、キリッとした顔立ちが物凄くイケメン。
ココの人たちが着ている純白の服も、この人が着ているだけでまるで貴族服のよう。キッチリと着こなし、バッチリ決まっている。
それにしても。
ぶ?
今、ぶ、って言った?
名前が、ぶ?
珍しい人もいるものだ、と樹月が関心している間に、ブレイクの隣にいたもう一人の男が樹月ではないどこかを見ながら自己紹介をする。
「僕、ひとし。山田ひとし。コードネームはシンクトゥ。よろしく」
これまた不思議なオーラを発する人だ。樹月が高校に通っていた頃にも、こういうユルくて不思議なオーラを発する人がいた。まあ当然の如くクラスメイトからは引かれていたが。
この人もまた結構な長身で、髪の毛は悪い例えを用いるなら埃のような灰色。手入れがされている風ではなく、ボサボサ無造作ヘアー。やっぱり埃。
顔もこれ以上なくユルい。ボーっとしていて口は半開き。目線の焦点も定まっておらず、物凄い勢いで虚空を掴んでいる。
服も、面倒臭がりの中学生のようなダラしなさ。このキッチリした武と何故一緒にいるのか不思議なほど正反対。
「俺は、倉野樹月です。コードネームは、クラヴィウス。どうぞよろしく……」
で、頭を下げる。
それを聞いて、武は驚いたように。
「ん? 倉野樹月って言ったら……」
続いてシンクトゥも思い出したように。
「あ……今日連れてきた新人の名前と同じですね」
「俺を知ってるんですか……?」
ブレイクは頷き、シンクトゥの肩に手を置く。
「知ってるも何も、こいつ……シンクトゥは君をここへ連れてくるための瞬間移動の“道”を作った張本人だ。間接的に連れてきた事になる」
ということは……この男、シンクトゥは、ライトが言っていたパソコンとこことを繋いだ同士という人なのだろう。そういう専門の人がいるという事は、そういう事が出切るのは恐らく凄い事なのだ。
にしても、これは何かの縁だろうか。
「まさか、そんな人に会えるとは、思いませんでした」
樹月は心からそう思う。間接的ではあるが、この人も自分を別世界へ連れてきてくれた人。感謝したいと思った。
「私達も驚いたよ。だが、“魔力”とは“引き合う力”でもあると聞く。それは運命のようなもので、決して偶然ではないのかもしれないな」
武は、この出会いに対してか、その法則に対してか、満足げに頷く。
「ところで、君の“付き人”は……?」
しばらく何も言っていなかったシンクトゥが、急に場の空気を壊し、樹月ではないどこかの一点を見つめながら聞いてくる。
「付き人……?」
樹月は人の目を見ずに話すシンクトゥの態度に少し戸惑いながらも、初めて聞く単語に反応する。
「ああ、君を連れてきた人の事だ。ココに慣れるまで、しばらくはその人が付き人となり、案内や説明などをするのが仕来りなのだが……」
樹月が顔をしかめて頭に疑問符を浮かべたので、ブレイクが補足をする。
樹月はそれを理解し、
「では、ライトさんの事ですね」
突如。
ずざざっと、二人が敏感に反応し、その場から2、3歩引いた。二人とも驚きを隠せない様子。
しかし、むしろ驚いたのは樹月の方。
「どう、したんですか……?」
慌てて尋ねると。
「倉野君、可哀想だな……」
「哀れというか……」
「……?」
やはり、ライトとはそれだけ別の意味で凄いという事?
「だって……“あの”ライトだろう?」
「“あの”ライト……」
よく見ると、二人の目線の先は自分ではなく、その後ろ……?
「……?」
そういえば、会話に夢中でライトの事をすっかり忘れていた。自分を置いてどこかへ行ってしまったのか?
「倉野君……回れ右だ。ゆっくりと」
「そう、焦らず……」
「……?」
それにしても、何やら周りが妙に騒がしい。
とりあえず、二人に言われた通り、ゆっくりと回れ右をしてみると。
「うらああああああっ!!」
まるで酔っ払ったかのように、物凄い声をあげて闘技場の中心へ物を投げるライトが、少し離れた所に居た。
男が大人数で止めようとするが、ライトは止まる様子もなく、次から次へとビンやバットやガラクタを召還し、投げる、投げる、投げる。
樹月はただ唖然とし、後ろの二人は同時にため息。
「死ねえええええっ! レイッ!!」
何かを叫びながら、ひたすら、投げる。
樹月はどうする事も出来ず、ただその状況を、終わりが来るまで呆然と見ている事しか出来なかった。
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