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大樹のタネ

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2025/04/28 22:51
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 ――第3話――

 ~ロープレのノリだ~



 黒タイルの空間に、壁も天井もない簡易な教室がポツンと。
 教卓に沙夜、イスに樹月。少し離れた位置にライトが立つ。

 沙夜は教卓から樹月を見て。
「まずは、強引に貴方をここまで連れて来てしまった事をお詫びします」
 言って、丁寧に頭を下げる。

 とんでもない。

 むしろ、今の自分は恐らく今までの人生の中で最高にワクワクしている。
 何もかもが新しい世界。横暴ではあったが自室から自分を引っ張り出してくれたライトにさえ感謝している程。
 夢も未来も無く。ただパソコンの画面を見つめて、時間の感覚すら無くしかけていた自分を引っ張り出してくれたライトに。

 色々考えているところへ、沙夜が割り入るように言う。
「授業の前に、貴方に教えられない事があります」
「それは、何ですか」
「貴方をここへ連れてきた理由と、X-Juidに入団してもらう理由です」
「…………」
 やはり自分の入団は確定なのか。というよりも前に、理由が言えないのは何故だろうか。
「ですが、貴方がX-Juidに入団して、与えられた指令をこなし続ければ、いつかは必ず理由が分かります」
「そう、ですか……」
 答えを急ぐなという事か。それならば心配は要らない。元々自分はせっかちな性格ではないと自負しているし、「答えを急いではいけない」は自分の座右の銘である程だ。
「さて! では改めて。勝手ですが授業を始めたいと思います」
 ライトが遠くから学校のチャイムの音を鳴らす。樹月はこれも魔法なんだろうな、とか、鳴らす必要があるのか、思いながら。
「出席を取りまーす。いない人はいますかー?」
 誰も手を挙げない。
「全員出席でーす☆」
 樹月は思わず唖然。
 キッチリしていると思ったらこんないい加減な一面もあったとは。
 どことなくライトと似通うところを見つけてみたり、みなかったり。
 この事はとりあえず「お茶目」で流す事にした。
「さて、貴方にはX-Juidへ入団した後、ここの団員として活動して貰いますが、その前に説明する事があります」
 沙夜はペンでホワイトボードに大きめに「魔法」と書いた。流れるような綺麗な字体だ。
「この世界に“魔法”はあります。良いですね?」
「はい」
 この状況で、どうやって否定できよう。もう既に腹は括っている。
 沙夜は満足げに頷いて。
「“魔法”とは、“魔力”という人間の潜在エネルギーを様々なエネルギーに転換して操る技術です。そのエネルギーの種類は数千、数万にも上りますが、詳しい数値を出すのは不可能です。私達はこの“魔法”を使い、様々な活動をしています」
 何だか急に難しい話になった気がするが……分からなくもない。
「ロープレのノリだ」
 ライトが遠くから言う。
(あ、そう……)
 そういうカンジで良いなら分かり易いのだが。
 沙夜は笑顔で続ける。
「“魔力”とは、“核”という、人間の体内に存在する動力源から生み出す事が出来ます。魔力を生み出す為には体内のエネルギーを核へ集めるので、魔法を使用し続けると激しい疲労や空腹、睡魔などに襲われます。訓練次第で持続力も上がりますが」
「レベルアップのノリだ」
 ライトがまた遠くから言う。
(あ、そう……)
 何故かライトが言うと分かり易いのは置いておく。
 気付けばいつの間にかペンが独りでに浮いてホワイトボードに字を書いている。
 疲労、空腹、睡魔……。魔法は無償では使えない、等々。
「そして、X-Juidに入団している人は、全員が魔法を使えます」
 と言う事は。
「俺も、入団すれば、魔法を使えるという事ですか」
「はい。ちなみに魔力の伝授は数秒で終わります」
(数秒……)
 ならば、とんでもない苦痛を伴うのか、はたまた人格が変わったり死の危険があったりするのだろうか。
 樹月が色々な恐怖を想像していると。
「薬を飲む感じのノリだ」
 と、ライト。
(あ、そう……)
 要はあっさり終わる、という事で良いのか。
「さて、貴方も随分気にしていると思いますが、X-Juidの活動の事です」
 思わず聞き入る。上半身が自然と前の方に寄る。
「簡単に言うと、本部から出された任務をこなすのですが、その具体的な説明は面倒臭いので、その場で任務が下されるのを聞いて下さい」
 思わず転びそうになる。座っているのに。
「では、これで授業は終わりです」
 一応、形式上。
「ありがとうございました」
 樹は言って立ち上がり、礼。
 一息。
「さて、それでは入団してもらいましょう」
(……やっぱり選択権無し……?)

 だが。

 どうせここで入団しなかったところで、待つのは今までの生活。両親にも既に見限られ、自分には“未来”など無い。それに、今の自分は好奇心のカタマリ。表には出さないようにしているが、少年に戻ったようにワクワクし続けている。この新しい世界の事をもっと知りたいと思う。
 そして何より、自分がここに連れて来られた理由。今は皆目見当も付かないが、知らなければいけないような、そんな義務感まで沸いてくる。

 こんな自分にも、可能性があるのだ。
 後戻りするという選択肢は、最早樹月の頭には無かった。

「樹月君……で、良いかしら? 光もこっちへ来て」
 二人は言われたままに沙夜の元へ。

 例によって、あの吸い込まれる感覚。

 数秒後には、3人はまた先ほどの狭い部屋にいた。
 沙夜はカウンターの向こう。樹月とライトは入り口側と、さっきと全く同じ位置。
「では、伝授を行います。これが終了すれば貴方は晴れてX-Juidの団員です。心の準備は良いですか?」
「はい」
 即答する。もう迷いは無い。
「では、こちらへ近づいて下さい」
 言われて、樹月はカウンターに密着する程まで近づく。
 沙夜は目を閉じ集中する。すうっと息を吸い。

 右手を樹月の目の前に翳した。

 樹の視界が、一瞬、眩い光で覆われた。

 頭の中に、何かが入ってくる感覚。気分は悪くない。柔らかく、温かい。
 意識が遠のいていく――。

 ――……い!おい!

「おい!!」
 ライトの声が樹月の耳に飛び込んでくる。

 水底から引き戻される感覚出樹月が目覚め、虚ろだった目が焦点を取り戻す。どうやら立ったまま半分意識を無くしていたようだ。
「起きたな。魔力の伝承は完了だ」
 ふら付く体を両足で何とか支え、頭を押さえる。
「あまり、異変は感じませんが……」
「魔力があるからといって最初から魔法が使える訳ではない。1レベルの勇者が魔法を使いまくれないのと同じだ」
(あ、そう……)
 既にパターン化したやり取りは置いておいて。
「樹月君にはこの子と一緒に本拠地をある程度回って頂いた後、正式に魔法を習得して貰おうと思います。魔法の習得についてはその時にまた知らされるので、頑張って下さい」
 とりあえずはライトについていけば良いという事か。あまり嬉しい気分ではないが。
「それじゃ、私の役目はここで終わり。二人とも頑張ってね」
 沙夜が輝かんばかりのウインクをした直後。

「こんちゃーっす!」

 突然、樹月とライトの背後から元気で明るく、うるさいくらいの声。
 二人が振り返る。沙夜も少し驚いているよう。そこにはいつの間にか一人の少女。
「マリオネット……気配を消すのは止めろ」
「えー? 別にええやん。クセやし」
マリオネットと呼ばれた少女は、弾けんばかりの笑顔でさらっと言う。
 樹月より年下だろう。背は低く見た事が無い程細い体系で、ライトや沙夜と同様の純白の服を身に纏っている。ただ、袖の部分が大きく広がっていて、常にぶらぶらしている。髪は血のような赤黒い色。後ろで結び、散らばした今風の髪型。その二つのポイントは薔薇を連想させる。
 整った顔立ち。瞳は紅蓮で満ちていて、口元には常に悪戯な笑みを湛えている。
「そこにいるのが新人さん? へー……髪が紫かー。ライト、オモロイ子連れてきおったなー。ウチにくれ」
(……へ?)
 何を言っているのか理解に苦しむ樹月。
「何をしに来たんですか? マリオネット」
 沙夜が尋ねる。
「えー、冷やかし~」
「帰れ」
 無表情だが怒りを込めた口調でライトが言う。マリオネットは気に留めず。
「新人さん、名前なんてーの? ウチと付き合わん?」
 笑顔で詰め寄ってくるのが正直怖い。樹月は圧されて後ずさり。
「いやマジで帰れ」
 ライトの手にはその部屋で出すには大きすぎる大包丁。その切っ先はマリオネットの首元。
 マリオネットは別に恐怖する様子もなく両手を挙げて。
「冗談、冗談やって。おっかないなー。新人さんは不憫やねー。でも戦ったらライトよりウチの方が強いんよ」
 包丁を突きつけられながら笑顔でそんな事を言ってのけた。樹月はヒヤヒヤして様子を見る。ライトは無表情。
「マリオネット、その辺にしておきなさい。光もね」
 と、沙夜。
 その一言で、ライトが不服そうに包丁を消す。マリオネットは挙げていた手を下ろし。
「もー、冗談通じへんなー二人ともー」
 マリオネットはつまらなそうに、それでも口元は笑顔を絶やさずに文句を垂れる。
 沙夜とライトは同時に溜息。
「ところで新人さん、名前はー?」
 樹月は急に振られて驚くが。
「倉野樹月、です」
「コードネームはー?」
「コードネーム……?」
 今度は少し困った表情。
「え?まだ決まってないん? X-Juidに入ったら必ずコードネームを決めるんよ。任務中とかはコードネームで呼び合う決まりなんよー」
 なるほど、ライトやマリオネットというのがコードネームという事か。
「ウチは本名が永久クグツって言うんよ。トワって何かええやろー」
 マリオネットは自慢げに。
「え、まあ、はい……」
 樹月は反応に困りつつも一応受け答えする。
「あっちの姉ちゃんが沙夜っちで、コードネームがルビームーン。そっちのが光でライト」
(……なるほど)
 先ほど、ライトが沙夜にヒカリと呼ばれていた理由が分かった。
「フルネームは紅月光だ」
 ライトが補足する。
(アカツキ、か……)
 沙夜が蒼月でライトが紅月。どことなく関連性が無くも無い。先ほどの態度などからして、やはりこの二人には何か関係があるのだろうか。
 考えても答えが出る筈の無い事を考えていると。
「じゃあ樹月君のコードネームはウチが考えたげるよ」
 マリオネットが思いついたように言う。
「何を勝手な……」
 ライトが口を挟もうとすると。
「別に良いんじゃないかしら? どの道、正式登録するなら誰が決めても同じよ」
 沙夜が言う。
 そう言っている間にも、マリオネットは何やら考え込んでいる。
「イツキ……イツキ……。そうやねー。“イツキング”なんてどうや?」
「「「ダサッ」」」
 他の三人が口を揃えて言う。マリオネットが仕方ないと言わんばかりの表情で。
「じゃあ“イッツー”」
 樹月は今鏡を見たら相当嫌そうな顔をしているだろうな、とか思いつつ。
「マリオネット、貴方には任せられないわ」
 沙夜が割り入る。
 その姿が何とも頼もしい。
「“クラリン”でどうかしら? 可愛いじゃない」
 天使のような笑顔を向けられると困惑するしか出来ない。
 ライトがその空気を押しのけ。
「……貴様のコードネームは既に決まっている。思い出せ、あのホームページを」

(……あ)

「“クラヴィウス”……。貴様は“救済者クラヴィウス”だ」



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